天体撮影システム ミードLX850 米国天文月刊誌スカイ&テレスコープ2013年12月号より
経験者ならわかることだが、天体撮影は慎重にのぞんでもヒューマンエラーが避けられない困難な作業になる。ライトスイッチのように困難なテクノロジーの壁をみごとに克服してきたミード社だからこそ、イメージングの困難な課題に取り組んできた訳だ。ただ、LX850が本当の意味で成功をおさめるには、まだディープスカイ撮影を経験したことのない初心者をもうなずかせる必要がある。口径30センチF8鏡筒を搭載したLX850を今年の夏から秋にかけて長期テストした結果、ミード社が単に目標を達成したというよりも、驚くべき成功を収めたと自信をもって言える。このような結論に至った背景を説明するうえで、もう少しお付き合いいただきたい。
ハードウェア 私の事務所にLX850を載せた輸送トラックが到着し、総重量172kgの9箱が他運び込まれた。すべて開梱すると、個々の機材は、後部座席を倒した私の小型スポーツクーペの後部に収まる。最初の写真にあるシステム一式の重量は113kg近くだが、比較的持ち運びやすい構成に分割される(最も重いのが31kgの赤道儀本体)。
テスト期間中、最初の1か月はLX850をガレージに格納した。大きな鏡筒を外しても、三脚に乗せた赤道儀本体を、自宅近くの車道にある観測スポットまで運んでいくには重すぎて不便だ。やはり、三脚と赤道儀は別にして運ぶことにする。 しかしながら、この重さによる恩恵も少なくはない。LX850は非常にソリッドなマウントであり、口径30cmの望遠鏡をやすやすと搭載する。多くのオートガイドシステムでは、ガイドスコープを別途用意するため「たわみ」問題を抱えるが、LX850にはそれが皆無だ。マウントのエンジニアリングが優れているだけではなく、造りも良好なマウントである。その設計もきめ細かく、マウントの組み立てに必要な工具は2本の六角レンチだけ。これらレンチはもちろん、手回しノブ専用の締め工具も標準で装備されている(手回しノブは文字通り手で回すこともできる)。挿絵の多い取扱説明書には、すべての構成部品を正しく組み立て、観測する夜に備えてマウントをおおまかに調整しておくことができるよう、わかりやすく解説されている。一番不満に感じたことは、ハンドコントローラのコイルコードがあと3倍長ければよかったということ。
スターロック ハンドコントローラーのボタンを数回押すと、データベースに組み込まれた何千もの天体を自動導入できる。LX850のデフォルト設定では、スターロックオートガイダーに内蔵された2個1組のセンサーが、導入天体近隣のブライトスターをセンタリングし、シンクロしてから、ディープスカイ天体を正確に視野中心に合わせていく。このプロセスは、オフにすることもできるが、完全に自動化されていて、一般的な自動導入なら1分もかからない。高い導入精度は、写野の狭いカメラや、視野の狭いアイピースのユーザーには大きなメリットだ。
LX850が目標の天体を15〜20秒で高速導入した後、スターロックは自動的にガイド星を見つけ、追尾を始める。ここでカメラのシャッターを解放し、5分間の露出に成功。セットアップ時にもう15分かけて、より精度の高い“ドリフトポーラーアライメント”を行うと、10分間の露出に難なく成功する。ドリフトポーラーアライメントは、観測地で北極星が見えないときに実行。スターロックシステムによる高度な自動化機能だが、たまたまガイド星が都合のいい位置にあった夜だからではなく、いつの夜でも確実に実行可能な機能である。夏から初秋にかけて、5〜6分の露出を数十回行う。顕微鏡レベルなら、必ずしも完璧な丸ではない星像もあるが、個々の露出をスタックすると、ガイディングミスで「ダメ」と判断したフレームはひとつもない。却下したフレームが一枚もない!LX850の驚くべき追尾記録だ。しかも、常にスターロックのデフォルト設定で行った結果である。スターロックガイディングには上級者向けにチューニング機能がいくつかあり、いずれも試してみたが、スターロックによる自動設定の結果を上回ることはない。箱から取り出した状態のLX850を初心者が使っても、常に良好な結果を出してくれるシステムなのだ。 実際の運用はスムーズに行えたかというと、残念ながらそうはいかない。原因は、ドキュメンテーション(取扱説明書)にある。当然のことながら、私個人はLX850とは初対面だ。ハンドコントローラーの表示は夜間でも見やすくて快適だが、表示される内容と、取説の解説がまったく一致しないことがある。取扱説明書に書かれた解説と、実際の動作に矛盾と誤解もあり、LX850初心者の私には決して小さな問題とはいえない。二晩ほど格闘した結果、初期設定と極軸合せを正しく行えるようになった。当然のことながら、初期設定と極軸合せを正しく行った後、はじめてLX850を使うことができる。 後知恵になるが、「LX850を使う前に知っておくべきことはきわめて簡単」という皮肉な結果になった。決して誇張しているわけではないが、良くできたクィックスタートガイドがあれば、初心者が使っても、組み立て済みのLX850に電源を投入してから30分も経たないうちに、オートガイドされた露出の準備が完了する。ミード社では、取扱説明書を改善しているとのこと。 レポート紙面が限られているため、記事はLX850のユニークなオートガイディング機能を中心に展開した。ただ、紙面を5倍に増やしても、LX850天体撮影システムのすべてを語り尽くすことはできない。ただし、その多くは、長年の試練を経たオートスターツーを備えたミード社の自動導入望遠鏡システムが実証済み。口径30センチF8のACF鏡筒も、2006年にRCX400をテストしたときと同じ光学系を備える。 天体撮影の歴史を振り返ると、今日、オートガイディングの出現でより多くのアマチュアがディープスカイ撮影に興味を示している。かつては手動ガイドを何時間も行っていたが、それに耐えられるアマチュアは稀な存在であった。最近のオートガイダーは従来のモデルに比べはるかに使いやすくなっているが、それを使いこなすのは一筋縄ではいかない。このような状況のなか、LX850の天体撮影システムは飛躍的進歩である。自動導入の天体望遠鏡が観望の世界で功績を果たしたとすれば、LX850は「難しいとされてきた天体撮影を、押しボタンだけで容易にしてくれる」という、すばらしい成果を果たしたのである。
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