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G11 赤道儀


意オライオン350mm F4.6ニュートン+ロスマンディーG11(ジェミニ仕様)

さる5月のゴールデンウィークの1日、埼玉県県民の森駐車場で観望中の横尾雅司さんを訪ねました。やや湿度が高かったものの、南北に縦断する天の川とその暗黒帯が肉眼で明瞭に確認できる好条件。折から接近中のシュワスマン=ワハマン彗星も当夜のハイライトのひとつでした。駐車場には所狭しと望遠鏡がならび、早い薄明開始時間を時間を惜しんで撮影に観望に、天文ファンの活気に満ちた一夜が続きました。
熱狂の一夜が明けた新緑もまぶしい朝、お話を伺いました。




口径350mmのニュートン反射赤道儀は、据付機としてもスケールの大きなシステム。フードを付けた筐体は長さが2メートル超。この巨体を移動観測地に運ぶのはもちろん、対恒星時400xのスピードでスイスイ自動導入、軽快といっていい使用感なのには驚く。

Am (テレビュー・ジャパン 天津、以下省略):
ずいぶん大きなシステムですね。組み立て、分解など、手間がかかりそうですし、相当な体力が必要ではないですか?

Yk (横尾雅司さん、以下省略):
ひとりで移動できる最大口径の反射赤道儀を求めましたので、運用当初はこの大きさに戸惑って、かつて所有していた50センチスタースプリッターより「体力がいるなぁ」と感じたこともありましたが、ちょっとした工夫で今では楽に移動できていますよ。


Am:
具体的にはどういった工夫をなさったのですが?

Yk:
鏡筒はプレート込みで約28Kg。それ以外は赤道儀やピラーなど、単体で20Kgを超えるパーツがないんですね。これは充分に「持てる重量」です。要は、それぞれのパーツを保管する場所の確保と、保管や移動に適したケースを工夫することで解決です。
鏡筒は自室に縦置きすることで、部屋の隅に直径40センチの柱が一本立っただけで済みますし、赤道儀はキャスター付トランクケースに入れていますので、壁に寄せれば廊下でもOK。ピラーは玄関に置けば、傘立てより場所をとらない。
車載の時は鏡筒はプラスチック製デッキボードを広げてハッチバックから滑り込ませ、鏡筒設置後はそのまま自分の仮眠ベッドになります。ケースに入った赤道儀や、ピラーは積み重ねできますから、車載の苦労はありません。機材の出し入れには、3回玄関を開けるだけです。


Am:
なるほど。これだけ大きなシステムになると、まず合理的に保管場所を確保する必要がある訳ですね。おまけにワンボックスカーですから、これだけ積んでも積載にはまだ余裕がありますね。

Yk:
さすがに鏡筒は目立つので、間違っても家族の生活空間には置けない(苦笑)。2階の自室へは家族の目を盗んでサッと階段を上ることが肝要です(笑)。


Am:
では個別にお話を伺いますが・・・。鏡筒はさすがに巨大ですね。

Yk:
移動可能な赤道儀に搭載できる大口径ニュートンは、オライオン社のものしかあり得ないわけで、そのカタログの最大口径を選びました。35センチといっても、50センチの経験があるので、口径的には縮小です(苦笑)。


Am:
鏡筒回転はどうしてます? この口径になると、とてもたいへんだと思いますが。。

Yk:接眼部はご覧の通り、カウンターウエイト方向に固定しています。これで全天どこへ向けてもアイピースを覗けます。撮影用のセットアップでもこの方向に接眼部を固定するのがベストでしょう。また、自動導入の精度維持のためにも、鏡筒バンドは緩めるべきではないと確信してます。



ミラーセルは背面6点支持に改造されている。元のセル構造を保ったままの改変が判る。完全なシースルーセルのため「温度順応は早い」という。

Am:
鏡筒はずいぶんと改造されていますね。

Yk:
鏡筒の素材と厚み、そしてその筒長、バンドの強度と保持の方法、アスペクト比12.5:1のシンミラー、などなど構造物としての鏡筒の要素をまず考えました。高精度ミラーの精度を損なわない意味と、赤道儀に載せて自動導入が精度よく行えるため・・同時に光軸を確実に保持できるために、ミラー保持を含めた鏡筒の補強改造が必要だと注文した時点で判断していました。

Am:
改造と言っても、可能な限り元パーツを利用していますね。

Yk:
あくまでG11赤道儀の搭載能力を超えない範囲で、という前提を意識して行いました。特に主鏡セルは、作り直せばいくらでも方法はありますが、てきめんに重量増になることは目に見えています。当然、オリジナルの鏡筒バランスに大きな変更を加えることになるので、今度は鏡筒の強度が問題になる・・という無限ループの悪循環になることを恐れました。改造してから言うのは何ですが、オライオン鏡筒は絶妙なバランスの上に成り立っていると思いますね。


Am:
主鏡セルの詳細を教えてください。

Yk:
オリジナルセルの裏面3点支持用のナイロンネジを外して、フレーム背後からアルミ平衡板を3枚渡し、それぞれ両端に設けた円盤でミラー背面を6面でフローティング支持しています。円盤のミラー側にはフレキシブルな高分子素材を貼り付けています。
鏡周は、3本のナイロンネジが直接ミラーに当たる方式をやめ、やや厚手の真鍮板を叩いてR形状のバネにしてネジが当たるミラー部分に貼っています。この状態で、主鏡の変形は認められません。ただ、オリジナルのセルでは星像をチェックしてませんので、この改造の効果かどうかは判りません(笑)。


Am:
高精度仕様のミラーですが、見え味はいかがですか?

Yk:
まだ本格的な運用をはじめてから絶好のシーイングに巡りあってません。それでも、ミラーの温度順応が済んで鏡筒のコンディションが整い、光軸を追い込んだ後では、火星や木星を見るとシーイングが悪い条件であっても、その気流の裏にある惑星像が判ります。これは、スタースプリッターの50センチ鏡やTV-102でも感じた印象です。この両機は、その後絶好のシーイング下で、とても素晴らしい惑星像を見せてくれましたので、オライオンにも期待しています(笑)。恒星の内外像はほぼ対象で、中間リングの切れもよいですよ。

Am:
昨晩、シュワスマン=ワハマン彗星を見せていただきましたが、ほかの大口径(76センチ&50センチ)ドブソニアンと違った小さい星像と、抜群の背景のコントラストに色彩豊かな星ぼしにはびっくりしました。木星はシーイング悪すぎでしたね。



軽量な自作フード。素材は段ボールのように見えるがストローのような軽量なプラスチック製。補強を兼ねた木材切り抜きバッフルも効果的。鏡筒内壁に全面貼られた遮光シートも相まって、昼間覗いても鏡筒内は見事に漆黒。スパイダーは自作品に交換。

Am:
実に軽量で、効果的なバッフルまで入った素晴らしいフードですね。

Yk:
ドブソニアンもそうですが、大口径ニュートンは接眼部に筒先から直接光が入りやすいです。撮影も視野に入れたシステムですので、フードは必須と判断しました。軽量化には特に気を遣いましたが、バッフルの切り抜きが一番体力を使った工作かもしれません(笑)。


Am:
斜鏡スパイダーが交換されていますね。

YK:
主鏡はもちろんのこと、斜鏡をいかにリジッドに保持できるかがニュートン反射のキモでしょう。スタースプリッターのスパイダーを参考に形状を決め、東急ハンズでステンレス板をカットしてもらいました。円錐断面形状はスパイダーに強いテンションをかけなくても安定していますが、念のため鏡筒側も補強板として真鍮板をあてがって取り付けています(下の画像に写っている四角い真鍮板)。これでスパイダー依存の光軸の動きは無いと判断できましたので、あとは筒先強度にかかってきますね。



接眼部はフェザータッチフォーカサーに換装。鏡筒内面の補強板取付のボルトが見える。。ファインダーは宮内光学製7x50正立ファインダー。その暗視野照明と予備ファインダーのポインター照明用電源として外部バッテリーを用いる工夫。観望にはパラコアを常用。

Am:
フェザータッチフォーカサーに換装されたいきさつは?

Yk:
テレビュー・ジャパンでフォーカサーの実物を見て、最高の製品と思いました。また、イメージングにはファインフォーカスは必須と考え、所有しているモーターフォーカスを取り付ける工夫も簡単だろうと、フォーカサー換装仕様で注文しました。その後、モーターフォーカスは「胎内星まつり」のジャンク市で破格の値段で入手できました。シュミカセ用でしたが、ファインフォーカスノブにピッタリはまりました。モーターをマジックテープで鏡筒に貼り付ければOK。ノブの動きが非常に軽いので、反動もなく完璧にマッチしました。


Am:
筒先のバンドは補強用ですか?

Yk:
そうです。別にバンドを入手して鏡筒の前後に割り振っています。後部のバンドは前後バランス調整用としても使っています。本当はもう一組入手して接眼部を前後から挟めばより完全でしょうが、今後の課題です。


Am:
パラコアは常用ですか?

Yk:
ドブソニアン(50センチF5)で劇的な効果を見てしまったので、アイピース性能を活かす意味もあって手放せませんね。高倍率で使っても像が甘くなりませんし。


G11赤道儀はジェミニ(レベル3)仕様。小型ノートPC「リブレット50」を232Cポートでリンクさせ、画面の星図から自動導入を行う。星図/コントロールソフトはフリーウエアの「Cartes du Ciel」。PCの下はシステムの電源。コンバーターを経由して15Vを赤道儀に供給。ピラーが赤道儀周りのスペースの余裕を生んでいる。極軸望遠鏡を装着していないことに注目。

Am:
自動導入の精度や使い勝手は如何ですか?

Yk:
鏡筒重量はプレート込み実測で28Kほどありますので、カタログデータでは過積載なんでしょうが、400倍速での高速導入の両軸の動きを見る限り、モータートルクにはまだまだ余裕があります。実際、鏡筒にケーブルが引っかかってモーターがストールしてもおかしくない状況になったことが一度ありましたが、モーターは"ウィーンウィーン"と反動を付けながらながら何度も突破を試みていましたよ。これにはビックリしました(笑)。G11赤道儀のギア比が両軸とも360:1と充分に大きいこと、そしてウォームの偏芯がとても少ないと感じます。ジェミニに合わせて赤道儀の回転系も精度アップしているのでは? 赤道儀も細身ですが思った以上に強度があります。通常の使い方ではストールすることはあり得ないんじゃないでしょうか。
200x超の視野にきちっと導入できることを目標にして、そのための鏡筒の補強などを行ってきた結果、現状でほぼ満足できる精度が得られています。難癖を付けるとすればハンドコントローラーかな。手袋をしていると、あのプッシュボタンはとても押しにくい。


Am:
PCリンクは必須でしょうか? また、星図ソフトの使い心地はいかがです?

Yk:
この「リブレット50」はずいぶん旧式ですが、ノートPCのなかでは抜群に省電力なのであえて使っています。ジェミニ本体の電力供給と併せて移動用バッテリーで一晩は持つとの算段です。最新スペックのPCでしたらバッテリーだけでもたいへんでしょうね。
ジェミニはLX200と共通のプロトコルなのでほとんどの星図ソフトとリンクできます。これも大きなメリットです。あと、これはジェミニの大きな特徴と言っていいと思いますが、システム内部でポインティングモデル(*注)を構築できるので、クローズドループで導入精度を高めることができます。基準星導入を面倒がらずに、デリングモデルをきちんと構成してしまえば、外部からのコマンドは位置データだけでよく、結果PC上のソフトが軽く動きます。これは旧式のPCではとても大事なことです。昨晩ご覧になったように最近のソフトは画像の表示も素晴らしく、一度使ってしまうと紙の星図には戻れませんね。
(* 注:極軸設定誤差、大気差や望遠鏡のたわみ、赤道儀軸の直交性の誤差などが、純粋に機械的な意味で正確な自動導入の障害になります。そうした要素をソフト的に補正し導入精度を高めるのがモデリングです。一般的には、基準星導入の個数を増やすほど補正パラメーターが増し、正確なポインティングモデルが構成できます。)

Am:
昔の星図ソフトは星雲星団の表示は○△□でしたからね。歳がばれますね(笑)。
それから、あらかじめ極軸を合わせておけば基準星導入は楽でしょうが、あえて極望を使わないことに意味がありそうですね。正確なポインティングモデルが構成されているかどうか、追尾精度を見れば一目瞭然ですからね。さすがジェミニを深く理解してらっしいますね。(もちろん撮影には極軸精度は大切です)



テレビュー・ジャパンオリジナルG11用ピラー。三脚部は折り畳み式。テンションロッドでピラー本体と頑強に一体化。本体は鋳鉄製(特注)。28Kgの鏡筒部とのバランスにトータル25Kgのカウンターウエイト。左後方には赤道儀収納トランクケースが。

Am:
ピラーの使い勝手はいかがですか?

Yk:
玄関先に置いても不審がられません(笑)。・・・さておき、強度、使い勝手とも満足しています。コストをかけただけのことはあります。テンションロッドでこれだけの強度が得られるとは使ってみないと判らないでしょうね。また、全天どこへ向けても脚立がいらないのでとても楽です。脚立の昇り降りにはドブソニアンでは苦労しましたからね。不動点高が同じでも、もし三脚だったら観望姿勢がとりにくい方向や、また、鏡筒が短ければ架台との狭い隙間に頭を突っ込んでアイピースを覗くことも方向によってはあるでしょうね。これだけ大きいからかえって使いやすい、なにか皮肉っぽいですね。
このピラーに難点があるとすれば塗装ですね。下塗りまでして綺麗に仕上がってますが、ちょっとぶつけると下塗りごと厚くはげるので、気が気じゃないです。もちろん剥げても機能には全然影響が無いことは承知ですが、こんなに丁寧な塗装はもったいない、といったところです。また、鏡筒を少し後方にバンドに固定すると天頂付近のある方向で鏡筒末端がテンションロッドと干渉します。あと4センチ高くてもよいかな。



Yk:
TGV-M(*注)の動画をキャプチャーした一枚画像です。モニターを生で見ると綺麗ですよ。リアルそのもの! たぶん大口径ドブソニアンが隣にあっても、あの高い脚立を昇ってまで見ようとは思わないでしょう。
(*注:超高感度モノクロCCDビデオカメラ。画素数30万。最大256フレームの画像蓄積が可能で、手軽に肉眼を超えた天体動画の世界を手に入れることができる)

Am:
4565はコアが点に集光して眼視に近いイメージですね。たった8.5秒(256フレーム)の画像蓄積で35センチ鏡ではここまで写るのですね。びっくりです。イメージスケールが大きいので小銀河団の撮影に威力を発揮しそうですね。

Yk:
TGV-Mは階調が自然なので、ほかのメディアでは中心部が飛びやすいギャラクシーの撮影に向いていると思います。秋の銀河団はチャレンジしがいがありそうですね。なにしろ、あの古田氏がドライアイス冷却カメラ+Tri-X(増感処理)でも苦労なさった対象がけっこうありますから。

Am:
古田氏の画像は自分が天文少年の時代に雑誌に掲載されていましたから、個人的に思い入れがあります。30年以上経った今でもドブソニアンユーザーのバイブルですね。ペガススやアンドロメダの銀河団は17等級クラスの銀河の集まりが多いようです。もちろん口径50センチの所有者でも、眼視では、はじめからあきらめてます。
今後はこのシステムをどういった方向で活用されますか?

Yk:
ほとんど完成に近いですが、もう一段の鏡筒の補強が残る課題のひとつ。
眼視を筆頭に、TGV-Mだけでなく、デジタル一眼によるイメージングにもチャレンジしていきたいですね。


Am:
今後の成果に期待しています。
本日はありがとうございました。


埼玉県入間郡 横尾雅司(Masashi Yokoo, Iruma-gun, Saitama)


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