LS80THa太陽望遠鏡 レポート

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ミードLS-20ACF          米国天文月刊誌スカイ&テレスコープ2011年10月号より


パンチのきいた太陽望遠鏡”シアン・ウォーカー(長年太陽観測に傾倒してきたイメージング編集者)

ラント社の新型Hα太陽望遠鏡“LSTHa/B1200”は口径80mm、F7の光学系とエアチューニング機構を備えている。架台以外は、手にしてすぐに太陽をHαで観測できるように、必要な付属品がすべて用意されている。


10年前は、一般の天文ファンがHα太陽望遠鏡を手にすることなど、とても想像できなかった。そのころ、太陽の活動を観るために巨額を投じることのできる人はほとんどいない。学校やプラネタリウムなどの天文施設でならお目にかかれても、個人が手にするなど夢でしかなかった。

時代は変わった。HαフィルターやHα望遠鏡を製造し、天文ファンの多くに太陽彩層面のダイナミックな活動を楽しませてくれるメーカーが数社になったいま、ラント社もそのひとつである。同社の光学設計者はアンディー・ラント、複雑な温度管理を必要としない画期的なHαフィルターを生んだあのコロナド社の創始者、故デビット・ラントの息子である。アンディは父の遺産を継いでラント社を創設した。本レポートでは、新たに特許を取得したラント社独自のエアチューニング機構を備えたLS80THa/B1200を借用した。

LS80THa/B1200には、専用ハードケース、ビクセン互換ダブテールプレート、テレビュー社製太陽ファインダー“ソルサーチャー”、7.2-21.5mm LSズームアイピースが標準付属されている。弊誌オフィスでも大いに注目を浴びたこのHα太陽望遠鏡だが、よく晴れた日、架台の他は標準パッケージに何も加えることなく、集まってきたみんなの目を楽しませてくれる。運よく雲ひとつない晴天。開梱して1時間も経過しないうちに、みんな、活発な太陽の姿に魅せられた。

LS80THa/B1200の組立は、付属のダブテールプレートとファインダーを取り付けるだけ。最初は同鏡筒のエアチューニングシリンダーがテレビュー経緯台のフォークアームに干渉して取り付けることができなかったが、長さ150mmのダブテールプレートには1/4”-20のカメラネジが別に施されているので、鏡筒を後方にシフトさせることができ、事なきを得る。

エアチューニング機構

さっそく新開発のエアチューニング機構を試す。ラント社は、最初に黒いシリンダーを外して機構内の気圧を外気と同じにすることを推奨している。シリンダーには複雑な4条ネジが切られているので、元に戻すときは注意を要する。その複雑な構造にとらわれすぎていた私は、シリンダーを元に戻すのに苦労した。それでも、数週間の使用期間中、平地から高地に昇って同望遠鏡を使う前には、シリンダーをいったん外して、また元に戻すことが必要になる。


気に入ったところ

素晴らしい太陽像
エアーチューニングシステム

気に入らないところ

標準の接眼部が滑りぎみなところ *
エアーチューニングシリンダーがはめにくい

* ジズコ注:引き揚げトルクは付属のレンチで調整できる(付属マニュアルに記載)。

眼視ならほとんど問題ないが、10:1デュアルスピードのクレイフォード式接眼部はときにより調整が必要になる。

LSTHa/B1200の口径80mm、F7の対物は高倍率でもクリアでシャープな像を結び、黒点周辺の細いフィラメント、繊細に立ち上がるプロミネンスなどの現象の細部をズームインできる。

外気圧と合わせるため、エアチューニング機構のシリンダーをいったん外してはめ直すことが、ときにより必要になる。

鏡筒のエアチューニングシリンダーがテレビュー経緯台のフォークアームに干渉して取り付けることができない。ただし、長さ150mmのダブテールプレートに1/4”-20のカメラネジが別に施されているため、鏡筒を後方にずらして取り付けることができた。


エアチューニング機構内部の気圧を外気圧と合わせたら、プロミネンスが見えるまでシリンダーを押し回していく。LS80THa/B1200は総重量が4kgと、80mm鏡筒としては比較的重い。中クラスのカメラ三脚にも搭載可能だが、より頑丈な三脚や赤道儀などに搭載すれば、より安定した太陽観測ができる。エアチューニング機構のシリンダーを調整するときは、片手で握りながら回していく。軽量な架台では揺れてしまい、プロミネンスと彩層面の両方を覗きながらベストチューニングを求めるのは難しくなる。軽快な観望ならテレビューのフォーク式架台で十分だが、とりわけ撮影システムを組むときなどは、ビクセンのGPD2クラス以上の頑丈な赤道儀が要る。

組立とチューニングを終えると、心底楽しめる太陽観測が待っている。太陽の水素波長656.28ナノメーターを0.7オングストロームの半値幅で捉えると公称されるLS80THa/B1200からは、太陽のプロミネンス、フィラメント、活動領域、ときおり発生するフレアなどがすぐに目に飛び込んでくる。テストを行った2011年の7月後半は、運よく活動的な黒点群が続出し、8月まですばらしい体験をさせてくれた。

標準仕様では、10:1デュアルスピード、繰出量1.5”のクレイフォード式接眼部が装備される。通常の用途なら十分だが、テンションの調整を要する接眼部は寒暖の差の激しい環境では少し心もとない。私見だが、重量級の撮影機材を装備した場合、別売のフェザータッチフォーカサーが有効なアップグレードかと思う *
* (株)ジズコ注:減速メカニズムを司るボールベアリングの直径は、標準仕様のクレイフォード接眼部の方がフェザータッチフォーカサーより大きい(ボール径が大きいほど動力の伝達容量は大きい)。

ブロッキングフィルターB1200は1 1/4”ダイアゴナルに内蔵され、ダイアゴナルの一端には8センチ長の2"バレル(摺動合焦筒)が付く。アイピースは、90度間隔で2つの固定ネジを配したブラスクランプリングでしっかりと固定される。ダイアゴナルのもう一端にはTネジがほどこされ、一眼デジカメやCCDカメラを直結きる良くできた設計である。


スイートスポット

これまで使ってきたHαシステムでは、太陽の詳細を最高のコントラストで捉える領域“スイートスポット”が視野内のどこかにある。望遠鏡によってはスイートスポットが円弧状に現れ、フィルターをチューニングすると視野を横切っていく。LS80THa/B1200のスイートスポットは大きく、視野中心から周辺に向かって放射状に広がり、チューニングにより視野内を移動することがない。スイートスポットを意識するのは、視野中間帯ではっきり識別できる太陽活動が、周辺になるとわずかに薄らぐときくらいだ。

LS80THa/B1200の先端には収納式フードが付いているが、その理由が解らない。通常、フードは夜観望する際、迷光や露を防ぐためにある。いずれも、昼間にはない問題である。フードを引き出して使うと、黒塗りしたフード内側の温度が上がり、その内側に太陽観測に好ましくない気流を生じさせるのではないかと思う。ただし、フードを収納した状態で使えば、その心配もない *
* (株)ジズコ注:リポートのとおり太陽観測にフードは不要です。ただし、フードを引き出すことで、一般観望会などでレンズに触れられる心配がなくなる、などの効用もあります。

LS80THa/B1200で観たHα太陽像も良いが、撮影した太陽像はさらにすばらしい。ブロッキングフィルターにB1800を選ぶこともできるが、標準のB1200ですばらしい結果を出すことができる。前述のとおり、アイピースホルダーの端にはTネジが施され、一眼デジカメやCCDカメラを直結できる。一眼デジカメは手軽だが、撮影できる太陽像はわずか4.9mmでとても小さく、バローレンズなどの拡大系が必要になる。

アイピースホルダーの端にはTネジが施され、一眼デジカメやCCDカメラを直結きるが、直焦点で撮影できる太陽像はわずか4.9mmでとても小さい。画像はCanon EOS Rebel XS(日本名:EOS Kiss F)一眼デジカメで撮り、トリミングしていない。


LS80THa/B1200は、ウェブカメラやコンパクトビデオカメラで撮るとすばらしい撮影性能を発揮する。この画像は、DMK 21AU618と2xバローを併用し、9コマをモザイク処理した。


LS80THa/B1200の場合、最近惑星の撮影で活躍している高速ビデオカメラで撮るのが理想的だ。今回は、DMK21AU618ビデオカメラと各種バローレンズを併用して活動領域やプロミネンスのクローズアップを撮り続けた。たとえば、2倍バローレンズを併用し、同ビデオカメラの小さなチップで捉えた9コマを合成することで、太陽全景を詳細に表す画像ができる。

総じてLS80THa/B1200は微細なチューニングを実現するエアチューニング機構を備えた、楽しく使えるHα太陽望遠鏡。中型ながら、トップクラスのHα太陽望遠鏡として機能する。自らの力で有名になったアンディー・ラントだが、父デビット・ラントの技術革新を確実に受け継いでいる。