LS-20ACF レポート

レポートトップ

home

ミードLS-20ACF          米国天文月刊誌スカイ&テレスコープ12月号より


ミード社の20センチ ライトスイッチスコープ...デニス・ディ・チッチョ

 いま“スマート”な望遠鏡と言えば、この“ライトスイッチ”をおいて他にない。

ユーザーの手まったく煩わすことなくフルオートアライメントを実現したミート社の“ライトスイッチ”の出現により、望遠鏡の自動導入はまた進化を遂げることになった。優秀な光学性能はもとより、望遠鏡本体に組み込まれた音声と画像のマルチメディア解説により、ユーザー個人の知識を広がるだけでなく、観望会などで一般の人々をまえに幅広い活躍が期待できる。


私はこれまでずいぶん長い間、この先執筆することのない3冊の本のために、資料をかき集めているところだと、まわりの友人たちに軽口をたたいてきた。その1冊目は「天体写真の歴史」、2冊目は「本スカイアンドテレスコープ誌の歴史」、3冊目は「シュミカセの歴史」だが、この3冊目の内容は、いうまでもなく、「コンピュータ化された望遠鏡の発展の歴史」ということになろう。自動導入搭載の天体望遠鏡はどこにでもみられる今、「デパート販売の」おもちゃのような望遠鏡にも自動導入機能が備わり、わずか一世代前は「自動導入望遠鏡」といえば「高級品」だった時代も、いまではすっかり忘れてしまいそうなくらいだ。

自動導入望遠鏡の進化の歴史のなかで、ひとつの大きなターニングポイントは、ミード社が低価格のオートスター付ETX-90/ECマクストフカセグレンを発売したときである。従来の自動導入望遠鏡のコストを1/4にまで抑えると、同誌の編集者リーフ・ロビンソンは、低価格の自動導入望遠鏡が「趣味としての天体観測が飛躍的に広がりを見せるだろう」と予測した。リーフは40年来の知人だが、これは彼が外した数少ない予測のひとつである。

低価格の自動導入望遠鏡がなぜ天文ファンの増やすことができないかについては、個人的にも意見はあるが、「初心者が自動導入望遠鏡を動かせないから」というのが大方の説である。天文ファンとして天文クラブや一般人の天文普及活動に関わっていれば、そうした窮地に陥った初心者にお目にかかるだろう。ほとんどの場合、問題はある特定の基準星を望遠鏡でアラインするときである。星図を備え、望遠鏡が基準星を表示しても、とくに市街地のような明るい夜空では、多くの初心者がアルクトゥールスとアンタレスを区別できず、基準星がケフェウス座α星ともなればなおさらである。

ミード社は越えるべき障害は大きすぎることはないと言わんばかりに、基準星へのアライメントをすべて自動的に済ませてくれるライトスイッチシリーズ(通称「LS」)を投入。これにより、同社は最終的な自動導入のゴールに大きく歩を進めたことになる。

ライトスイッチとは、一言で言えば「すばらしい機能」ということになるが、実は、LSの特徴はそれだけではない。光学性能、内蔵されたマルチメディアデータ、いずれも特筆すべきレベルであり、最初の数分でライトスイッチ機能により望遠鏡のアライメントを自動的に済ませた後、ずっと夜空を楽しむための重要な要素である。

開梱してみると ライトスイッチのコンセプトはシンプルの極みといえる。望遠鏡をセットし、スイッチを入れる。数分後、望遠鏡は夜空を自分で認識し、ボタンを一つ、二つ押すだけで、その夜に輝く天体を自動的に導入してくれる。想像の域を超えるプログラムコードの量をはじめ、内蔵式のGPS、LNT(水平・磁北検知)、基準星を識別するCCDカメラ等が、自動アライメントを実現する心臓部だ。


ボタンを1つで、使用頻度の高い機能や、記憶された天体カタログを表示してくれるハンドコントローラ「AutoStar III」

ライトスイッチの光学系には、従来のシュミットカセグレンか、価格は高いが、視野周辺まで良好な像質を結ぶ進化したACF光学系の2種類が用意されている。


 はじめてライトスイッチを体験したのは、今年の9月、この記事を書くためにミード社から借りた20センチモデルだ。クイックスタートガイドには14ステップの手順が写真つきで解説されているが、これもこれ以上は省略できないという証。三脚をセットし、8本の電池を入れ、アイピースを装着し、鏡筒とCCDカメラのダストカバーを外すだけだ。箱から出してはじめてのセットアップでも、5分もあれば十分である。

本誌事務所の通りを隔てた公園に望遠鏡を持ち込んだのが午後10時。通りの街頭を遮る木々のある広場で三脚の水平出しをしていると、雷雲が通り過ぎる。光害がつきもののケンブリッジの夜空では、夏の大三角、アルクツールス、その他の明るい恒星が見えるだけ。初心者の多くが市街地の夜空で迷ってしまうのもしかたがない。

電源を入れ、望遠鏡に命が吹き込まれるのを待つ。内蔵スピーカーが発する音声(英語)のほか、オートスターIIIに表示されるメッセージにより、アライメント動作が逐一確認できる。GPSが時間と場所を特定し、レベルセンサーが水平を感知し、コンパスが場所情報を用いて真北を示す。その後、望遠鏡は明るい基準星を探し始める。 望遠鏡が選ぶ基準星に高速駆動すると、CCDカメラは自動的に露出を行い、正しく基準星を識別し、その基準星を視野中心に導入し、最後に、撮影した画像を確認する。望遠鏡にモニタを接続していれば、操作の展開を画面で確認できる。同じことが、2つめの基準星に対しても行われ、いつでも観望を楽しめることになる。

条件の悪い夜空だったが、LSは完璧に動作した。はじめて場所では、GPSが“コールドスタート”を行う分だけ時間を要するが、15分も掛かっていない。次の夜、32キロくらい離れた郊外で試したが、およそ10分でアライメントが完了した。 基準星をじゃまする雲、木々、ビルなどがあると、LSは代わりの基準星を探し続ける。ある夜、アライメントを始めたときに丸い雲のかたまりが空を覆う。2度目で最初の基準星を記録した後、LSは2つ目の基準星周辺を探す。選んだ基準星が完全に隠れていることもあれば、最初の画像に記録されていることもあるが、露出による確認ができるほど夜空がはっきりとしない。15分ほどアライメント動作を続けた後、停止する。その夜空に輝く基準星のリストをすべて使い果たしたのだろう。いったんスイッチを切り、雲が去った後、ふたたびスイッチを入れる。アライメントが再開され、約5分で完了した。

日没前にスイッチを入れると、空が明るすぎてオートアライメントができない旨のメッセージが聞こえてくる。日没後20分も経てば、LSは自動的に基準星を探し始める。夜空に輝く基準星を識別できるひとは、基準星をアイピースに入れて手動でアライメントを行うことができる。いったんアライメントが完了すると、LSを移動しないかぎり、望遠鏡を「パーク」させて終了し、次の起動時に速やかにスタートアップさせることも可能だ。

気に入ったところ

信頼性が高いオートアライメントと自動導入機能 すばらしい像質 多彩なマルチメディアコンテンツ

気に入らないところ

オプションの頑丈な三脚がない。


 マウントに組み込まれた大型ギヤは、比類ない自動導入精度をもたらす。ターゲットを、常に、付属の26mmアイピースの視野0.62度内に導入する。

取扱説明書には、望遠鏡の電子コンパスに影響し、アライメントのじゃまになる「車両や金属壁などから離れて使用すること」と書いてある。私の場合、車から3メートルのところで何の問題もなかったが、金属物質は思わぬところに潜んでいることもある。いくつかの場所でテストを行ったが、あるところではLSのアライメントが水平に20度以上ずれていた。つまらない例かもしれないが、望遠鏡の下にあるコンクリートに埋め込まれた鉄筋が原因であることを突き止めた。別の携帯GPSの電子コンパスで同じ場所を調べたが、くしくも同じ結果だった。

ACF光学系 LSはすべて同じマウントを採用しているが、現行の15センチ、20センチ鏡筒は、ミード社従来のシュミットカセグレンか、新たに開発されたACF(Advanced Coma Free)いずれかの光学設計を配している。今回のテストでは後者を借用している。いずれの光学系でも視野中心の像質は同じに見えるが、視野周辺ではACFが勝っている。広角アイピースを使うと、より顕著に判る。とりわけ、テレビュー社のパンオプティック24mmを20センチACF光学系に装着し、3/4度の視野でピンポイントに結ぶ像がすばらしい。このアイピースの視野絞冠の直径は27mmあり、1 1/4”アイピースで最も広い実視界を実現する。

口径15センチ、20センチ、いずれのLSも、同じ伸縮式三脚が付属し、アイピースの高さを地上112〜160cmまで調整でき、立っても座っても観望できる。三脚は4キロと軽く、20センチ鏡筒のマウントに装着した状態でも、ひとりで楽に持ち運びできる。この三脚は20センチモデルにも十分対応するが、セットアップした状態でダンピングタイムが5秒というのは少し長く、高倍率で観望するときは、三脚の下にオプションの振動吸収パッド(3個1組)を敷くとよい。将来、より重量級の三脚が用意されかもしれない。

しゃべる望遠鏡 LSのフルオートアライメントはとても意義深い成果だが、マウントに組み込まれたマルチメディア装置も注目すべき機能だ。LSを購入するほとんどのひとが、オプションのビデオモニタを購入するのも充分うなずける。次にLSのマルチメディア機能について話しを進めたいが、音声とビデオ画像はコントローラのボタン1つを押すか、デフォルトでオフに指定することで、機能を無効にすることもできる。

LSの“シンプルさ”は、ユーザーが“スイッチを入れる”だけでアライメントが完了する目立つ電源スイッチに表れている。

単二アルカリ電池8本では3〜5時間しか駆動できないため、ほとんどのユーザーはDC12Vの外部電源を使用する。ただし、電池を入れておけば、何らかの原因で外部電源が途切れたときに代替電源となり、アライメントをやり直さなくて済む。


テキストでも述べているとおり、音声は内蔵スピーカーから発せられるが、画像はオプションのビデオモニタに表示される。音声とビデオ画像はコントローラのボタン1つを押すか、デフォルトでオフに指定することで、機能を無効にすることもできる。また、ビデオモニタには、ハンドコントローラよりも多くの行で操作を表示でき、操作の状態を確認しやすくなる。

すばらしい自動導入精度をもたらす大型駆動ギヤ。マウントの最高駆動速度は毎秒4度なので、モーター音も静かだ。


 望遠鏡に格納された天体データベースの内容は、2つのレベルに分かれている。聞き取り易いナレーションと、ハリウッド映画の予告編さながらのあでやかな画像を楽しみたいときは、想像上の画像を表示してくれる方のレベルを選ぶ。私の場合、ひとりで観望しているときは、“MEDIA”ボタンを押してマルチメディア機能をオフにしている。ただし、大勢の人たちを相手にしたとき、このマルチメディア機能はおおいにその力を発揮する。観望会などでは間違いなく注目を引くことになり、大きなビデオ画面にでもつなげておけば効果絶大である。

 もうひとつのレベルは、ラジオ番組「StarDate」のサンディ・ウッドが穏やかな口調で語りかけてくる。天文情報、新和、一般知識等を織り交ぜた内容。この音声クリップは、聞けば聞くほど好きになる。昼間は天文関連の著作にいそしむ私でも、天体に関する出来事や数字を常に記憶できているわけではない。ディープスカイ天体を観ながら、一方でその天体の大きさ、距離、歴史的背景などを音声で教えてくれる。新しい観望スタイルではないか。しかも、じっくりと静かに観望したいときは、“MEDIA”ボタンを押すだけで途中でも音声を停止できる。

 有名なディープスカイ天体の見所をはじめ、数百の天体を音声で解説し、望遠鏡のデータベースに格納されたさまざまな天体カテゴリの一般的な解説も含まれている。私にとってとても有益な内容だが、ハレーが1714年に発見した球状星団M13の解説のくだりで、「英国人天文学者のエドモンド・ハレーが著名なコメットハンター」と聞いたときは耳を疑った。

 LSのアライメントカメラを天体撮影に使えるということも聞いたことがあるが、このカラーCCDカメラはおよそ8度x12度の写野をカバーし、撮影した画像をオプションのSDカードに取り込むこともできるが、夜空の天体を撮ってもあまりよい結果は出せない。たそがれどきに三日月を撮ったが、旧式の携帯電話で撮ったものと同レベル。それでも、カメラを搭載した望遠鏡で遊ぶのも楽しいものだ。

 実際に試したLSの機能は以上のとおりだが、従来のオートスターを使っていたユーザーなら、オートスターIIIにもなじみの機能が組み込まれている。さらに、LSの起動方法から、マルチメディアのオン/オフのタイミングまで、ほとんどの機能をカスタマイズできる。いずれも簡単に設定することができ、デフォルトに戻すことも容易だ。

 “真剣に観望を楽しめる”口径、すばらしい光学系、だれにでもできるフルオートアライメント、すべてを低価格にまとめあげたミード社の功績。天文趣味の世界にどのくらい影響をもたらすかは、ときが教えてくれるだろう。いずれにしても、ライトスイッチテクノロジーのすばらしさについては疑う余地がなく、それ自体高く評価すべきものである。

 あとがき この記事は、長年トピックを書いてくれたシニアエディター“デニス・ディ・チッチョ”の最後の記事となる(スカイ&テレスコープ誌より)。